リンパ浮腫の手術

リンパ浮腫はこれまで治らないもの、だんだん悪くなっていくものと言われてきました。しかし、ここ10年間で治療法が進歩しました。現在のリンパ管機能を丁寧に検査することで、今の状態に適した治療法を選ぶことができます。 手術前にしっかり検査を行ってから治療方法を決めることが重要です。

リンパ管静脈吻合術 (LVA)

 リンパ機能の残っているすべての患者さんに適応がありますが、特に蜂窩織炎を繰り返している患者さん、リンパ小疱のある患者さんにおすすめです。

 

 簡単に言うと、流れの悪くなったリンパ管を静脈につないで、リンパ液が静脈を通って心臓へ戻っていけるようにする手術です。手術時間は2~3時間、入院期間は最短で2泊3日です。局所麻酔で、傷は1~3cmくらいなので、体への負担が少ない手術です。手術後は、当日から歩いてトイレや洗面に行けます。手術翌日から、圧迫療法を再開します。手術後にリンパドレナージや弾性ストッキング着用を行うと、これまで以上に効果が出やすくなります。

 

 癌の治療でリンパ節を切除すると、リンパの流れが悪くなるため、リンパ管の中の圧力は、100mmHg以上に上昇すると言われています(正常なリンパ管内圧は20~30mmHg)。それに対して正常な静脈内圧は10mmHg以下です。リンパ管と静脈をつなぐと、リンパ管圧と静脈圧の差から、異常に上昇したリンパ管内圧を下げることができると考えられます。LVAは「リンパ管内圧の上昇」というリンパ浮腫の病態に直接働きかける、本質的な治療といえます。

 

 この手術の費用は保険適用です。手術を受ける際は、高額療養費の事前申請をお勧めします。

リンパ浮腫 リンパ管静脈吻合術 LVAの写真

よくわかる最新医学

『リンパ浮腫 保存療法から外科治療まで』

監修:廣田彰男、三原誠、原尚子

本体価格 1700円

 

リンパ浮腫の診断、保存療法から手術のことまで詳しく書いています。一般の方向けにわかりやすく書いていますので、手術をお考えの方はぜひご一読ください。

 

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手術前の検査

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超音波検査で見たリンパ管と静脈

 当院では、手術前の検査を丁寧に行います。リンパシンチグラフィ、ICG検査、超音波検査で、リンパ管や静脈の場所を特定してから手術を始めることで、より確実な手術を行うことができます。手術前の検査は1時間くらいかけて行います。

 リンパシンチグラフィやICG検査でリンパ管が見つからなかった場合も、超音波検査を行えば、90%の方で元気なリンパ管が見つかります。リンパ管機能が低下してしまった患者さんでは、特に念入りに検査を行うことで、元気なリンパ管を探していきます。

 アレルギーのためにICG検査が行えない方も、リンパシンチグラフィと超音波検査でリンパ管が見つけることができます。超音波検査でリンパ管を観察できるようになったのは、ここ5~6年の進歩です。超音波検査を行うことで、リンパ管機能を評価することができ、元気なリンパ管を選んで手術を行います。

手術症例数

LVA 症例数 JR東京総合病院 リンパ外科・再建外科
JR東京総合病院 リンパ外科 診療の流れ

リンパ管静脈吻合術(LVA)の動画

【動画の説明】 

 ※ほとんど出血しませんので、安心してご覧ください。

 手術はすべて手術用顕微鏡で10~20倍に拡大して行います。手術前にインドシアニングリーン(ICG)リンパ管造影や超音波検査などを使って、リンパ管と静脈の場所に印をつけます。局所麻酔を注射します。最初に出てくる左側の白い指は執刀医(原)の人差し指です。比べるとわかりますが皮膚切開は1-2cmです。黄色い皮下脂肪の中から透明なリンパ管を見つけ出します。続いて赤い皮下静脈を探し出します。リンパ管の中には透明なリンパ液が入っているので、白色透明をしています。静脈の中は赤い血液が通っているため赤色をしています。

 0.5mm(1mmの半分くらい)のリンパ管と静脈を、世界最小の12-0番というナイロン糸を用いてつないでいきます。 糸の太さは髪の毛の10分の1くらいです。4~5針縫ったあと、リンパ液がきちんと静脈に流れ込んでいることを確認します。 赤色だった静脈は、リンパ液が流れ込むことによって透明に変わっていきます。

 最後は傷を閉じて手術を終了します。

 実際の手術では、患者さんの横にテレビを置いて、手術中の映像をリアルタイムで見ていただきます。あなたのリンパ管の現在の状態をしっかり理解していただくことができます。

LVAの合併症

手術後には、以下のような合併症の可能性があります。詳しくは、手術を行う主治医におたずねください。

創部感染(バイ菌がつく)、創部離開(傷がひらく)、リンパ漏(傷からリンパ液が漏れてくる)、出血(手術中、手術後)、痛み、リンパ浮腫の悪化、など。