リンパ浮腫の患部に、写真のような水疱ができることがあります。リンパ小疱(りんぱしょうほう)またはリンパ漏(りんぱろう)と呼ばれます。リンパ小疱は陰部に生じることが多いです。ヒリヒリした痛みがでたり、透明なリンパ液が大量に漏れてきたりします。そして、リンパ小疱がある方は蜂窩織炎を起こしやすいです。医療関係者にもあまり知られていない病変ですので、皮膚の感染症(ウイルス性のイボ、尖圭コンジローマなど)と診断されてしまうこともありますが、そうではなく、これはリンパ浮腫に伴ってできたものです。
リンパ小疱を放置すると、蜂窩織炎を繰り返して、リンパ浮腫が悪化しやすくなってしまいます。放置せず、しっかり治療しましょう。様子をみているうちに徐々に広がっていくことが多いですので、範囲が広くなる前に、早めにご相談くださいね。
陰部の皮膚に何かポツッとできたとき、「早く治療した方がよいリンパ小疱」なのか、「放って置いても治るおでき」なのか、心配になることがあるかもしれませんね。いくつか見分け方がありますので、まずはこちらを参考にしてみてください。心配なときは、皮膚科かリンパ浮腫専門の医療機関の受診をおすすめします。
【リンパ小疱の特徴】
・リンパ小疱は透明な水疱です。1個だけのこともあるし、写真のようにたくさんのリンパ小疱が重なり合うようにできることもあります。
・リンパ小疱が破れると透明なリンパ液がたくさん出てきます(薄いガーゼで対処できる量ではありません)。1~2秒に1滴くらい垂れてきます。数日間続くことがあります。
・リンパ小疱は、一度できたら自然に消えることはあまりありません。
【おできの特徴】
・おできは赤い色をしています。
・おできが破れると、浸みだしてくる液は少しで、数分で止まります。膿が出ることもあります。量はガーゼにちょっとつくくらいです。
・おできはできたり治ったりします。ひとつ治ったら他の場所にできたりもしますが、また自然に治ります。
少し難しい話になりますが、リンパ小疱がなぜできるのかをご説明します。がんの治療でリンパ節を切除すると、リンパの流れが悪くなり、リンパ液が溜まったリンパ管が水風船のようにふくれます。このリンパ管が皮膚の表面に向かってふくれていったのが、リンパ小疱です。つまり、リンパ小疱はふくらんだリンパ管そのものなのです。
顕微鏡で観察すると、リンパ小疱の部分では、皮膚のごく浅いところ(表面から0.2mm程度のところ)に、拡張したリンパ管があります(右上の図)。通常のリンパ管は0.2~0.3mmですので、10倍くらいにふくれています。
陰部リンパ小疱には、いろいろな方向からリンパ液が流れ込んでいて、これが症状の悪化につながっていることがわかってきました(右下の図)。足から流れ込む人、お尻から流れ込む人、お腹から流れ込む人などさまざまです。2つ以上の方向からリンパ液が流れ込むこともあります。
陰部リンパ小疱は、病院で相談しにくいと感じている患者さんも多く、いつの間にか大きくなってしまいます。医療関係者の中でもリンパ小疱のことをよく知っている人は少なく、患者さんが相談してもなかなか解決できないこともあります。当院では女性医師がリンパ小疱の診察を行いますので、安心して早めにご相談ください。
治療は以下の通りです。
・圧迫療法(便利な圧迫パッド(下の写真)もあります)
・リンパ小疱の切除術(範囲が広い場合は全身麻酔)
・再発予防のリンパ管静脈吻合術(LVA)
前述のとおり、リンパ小疱にはいろいろな方向からリンパ液が流れ込んできますので、切除しただけではすぐに再発してしまいます。数年前までは、切除後1か月くらいでほぼ100%再発していました・・・。でも最近では、リンパ液がどこから流れ込んでいるのかをICG検査などでつきとめ、その流れをせきとめるように足やお尻でLVAを行ってリンパ液の逃げ道を作ることで、再発率が1/3くらいに低下しました。この場合のICG検査はちょっと特殊で、お尻などにも注射する必要がありますので、全身麻酔の手術と一緒に行うことが多いです。
手術後も、可能であればリンパ小疱があった部分の圧迫療法をしていただくと、再発しにくいです。
リンパ小疱が広がらないため、また手術後に再発しないようにするため、体重コントロールが重要です。コチラのページもご覧ください。
上のイラストのように、リンパ小疱がある部分を木の葉型に切り取ります。水疱1個ずつ切り取るのではなく、ひとまとめに切除します。止血をして、縫い閉じて終わりです。一本線のキズアトになります。傷は溶ける糸を使って縫いますので、抜糸は必要ありません。手術翌日からシャワーが浴びられます。傷の中に血がたまらないように、細いストローのようなドレーンを入れておくこともあり、術後4日くらいで抜きます。約1~2週間後に外来で傷に問題がないことを確認したら、湯船に入れるようになります。
リンパ小疱を切除することで、リンパ小疱がなくなってすっきりするのはもちろん、リンパ液が漏れてくることもなくなり、蜂窩織炎も起こりにくくなります。範囲が広い場合は全身麻酔になりますが、小さなリンパ小疱なら小さな傷で局所麻酔で手術ができますので、早めにご相談ください。
【手術のリスク・合併症】
創部感染(バイ菌がつく)、創部離開(傷がひらく)、リンパ漏(傷からリンパ液が漏れてくる)、出血(手術中、手術後)、痛みなど。
これまで、リンパ小疱の原因は解明されていませんでした。私たちは、リンパ小疱の患者さんを治療していく中で、リンパ小疱の病態を解明し、国際雑誌で発表してきました。
論文要旨・和訳
(背景)リンパ浮腫にはリンパ小疱が合併することがあるが、その病態はいまだ解明されていない。われわれはリンパ小疱の病態を理解するため、病理学的な研究を行った。
(方法)2008年3月から2015年12月にリンパ小疱の治療を受けた患者の調査を行った。10人の患者にのべ16回の手術を行い、リンパ小疱を切除した。患者の平均年齢は57.2歳(43~69歳)で、すべて二次性リンパ浮腫をもつ女性であった。手術で切除したリンパ小疱をホルマリン固定し、HE染色を行った。8検体については追加でpodoplanin,染色、LYVE-1染色、CD4染色、CD8染色、CD20染色、CD31染色を行った。
(結果)10人すべてで蜂窩織炎の既往があり、7人では10回以上の蜂窩織炎の既往があった。16検体すべてで真皮乳頭部におけるリンパ管の拡張を認めた。また、臨床的な炎症所見がないにもかかわらず、すべての検体でリンパ球を主体とした炎症細胞の浸潤を認めた。浸潤しているリンパ球は主にCD4+T細胞で、CD8+T細胞やCD20+B細胞も認められた。この3種類のリンパ球の細胞数は、真皮深層よりも浅層で有意に多かった。これは、真皮浅層(真皮乳頭部)で拡張したリンパ管から漏出したものと考えられた。CD8染色を行った8検体中7検体でCD8+T細胞の表皮浸潤を認めた。さらに真皮層ではコラーゲン線維の増生や表皮の肥厚が認められた。また、足にインドシアニングリーン(リンパ管造影剤)を注射すると、陰部のリンパ小疱が造影されたことから、足のリンパ管と陰部リンパ小疱の連続性が示された。
(結論)リンパ小疱の真皮では、リンパ管拡張やコラーゲン線維の増生が認められた。真皮におけるリンパ球の常在化が、リンパ小疱患者に頻発する蜂窩織炎と関連する可能性がある。
(引用元)Hara H, Mihara M, et al. Pathological investigation of acquired lymphangiectasia accompanied by lower limb lymphedema: lymphocyte infiltration in the dermis and epidermis. Lymphat Res Biol. Lymphat Res Biol. 2016 Sep;14(3):172-80.
【参考文献】
・Hara H, Mihara M. Genital lymphaticovenous anastomosis (LVA) and leg LVA to prevent the recurrence of genital acquired lymphangiectasia. Microsurgery. 2021 Jul;41(5):412-420.
・Hara H, Mihara M. Treating and preventing recurrence of recurrent genital acquired lymphangiectasia using lymphaticovenous anastomosis at genital area: A case report. Microsurgery. 2020 Mar;40(3):399-403.
・Hara H, Mihara M. Multi-area lymphaticovenous anastomosis with multi-lymphosome injection in indocyanine green lymphography: A prospective study. Microsurgery. 2019 Feb;39(2):167-173.
・Hara H, Mihara M. Lymphaticovenous anastomosis and resection for genital acquired lymphangiectasia (GAL). J Plast Reconstr Aesthet Surg. 2018 Nov;71(11):1625-1630.
・Hara H, Mihara M. Indocyanine Green Lymphographic and Lymphoscintigraphic Findings in Genital Lymphedema-Genital Pathway Score. Lymphat Res Biol. 2017 Dec;15(4):356-359.
・Hara H, Mihara M, et al. Therapeutic strategy for lower limb lymphedema and lymphatic fistula after resection of a malignant tumor in the hip joint region: a case report. Microsurgery. 2014 Mar;34(3):224-8.
・Mihara M, Hara H, Narushima M, Mitsui K, Murai N, Koshima I. Low-invasive lymphatic surgery and lymphatic imaging for completely healed intractable pudendal lymphorrhea after gynecologic cancer treatment. J Minim Invasive Gynecol. 2012 Sep-Oct;19(5):658-62.